デビュー作「サイドカーに犬」、芥川賞受賞作「猛スピードで母は」から、人間同士の微妙な距離感を描くのが巧い作家。
主人公の男は元ゲームデザイナー、今無職。妻の浮気で離婚したものの、その後も他愛のないメールのやりとりを続け、親しい友人としての距離を保っている。大きなアクシデントも、劇的な展開もそこにはない。過去の回想が挟まれつつ、淡々と日常が続いていく。
仕事と女遊びに情熱を傾ける友人の存在が日常のアクセントであり、彼と主人公の姿の対比を通じて、幸せのあり方、そして難しさについて考えさせられる。
よく男の方が過去を引きずると言われる(それが本当かどうかは別として)が、そんなウダウダしたオトコ心を、湿っぽくならずリアルに描いていて、なんだか身につまされる。