方舟さくら丸

安部公房「方舟さくら丸」

久しぶりに再読。

採石場跡に築いた巨大な地下シェルターで引きこもりのように暮らし、その“方舟”で滅亡後の世界を生き延びる仲間を探す男。わずかに湿り気のあるような、不快さを帯びた文章。人間の残忍さ、薄情さ、不安定さ、論理的であることの醜悪さ、現世の気持ち悪さを偽悪的にならずに書き得た希有な作家だったと改めて感じる。

偽悪的でないからこそ、そこに捨てきれない希望も滲む。幼い妄想が、自らの手を離れた時に一気に醜悪なものと見えてくる。

「街ぜんたいが生き生きと死んでいた」という終盤の描写は代表作「砂の女」と並んで印象的。安部公房の最高傑作のひとつだろう。

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