監察医として30年あまり、さまざまな事件・事故の変死体と向き合ってきた著者によるエッセイ。死者の人権を守る仕事としての監察医の役割についてよく分かる。
ハイハイで石油ストーブにぶつかり、やかんの熱湯を被って亡くなった女児。やけどの形を見た監察医の指摘で母親の証言が覆り、熱湯を故意にかけて殺されたことが分かった。
著者は「もの言わぬ死体は決して嘘を言わない」と書く。言葉を失った死者に代わって、その立場を代弁するのが監察医の仕事であり、それは死後に残された周りの人々の責任でもある。
硬派なノンフィクションではなく、思い出話やその時々の事件・事故に対する雑感という内容が中心。予備知識無しに読み始めたら、浅沼委員長刺殺事件の検死の話がさらっと出てきて驚いた。今から約三十年前の刊行で、さらに思い出が中心なので、時代を感じる内容も多い。