その日東京駅五時二十五分発

西川美和「その日東京駅五時二十五分発」

人より少し早く終戦を伝えられ、焼け跡の中を東京から故郷の広島に帰っていく少年の姿を描く。著者自身の伯父の手記が下敷きとなった物語。淡々とした筆致で、劇的な展開は何もない。戦争を描いた従来のフィクション、あるいはフィクションのような証言に対するアンチテーゼか。後書きには「『全てに乗りそびれてしまった少年』の空疎な戦争体験」と書かれているが、彼は本当に乗りそびれていたのだろうか。最後、焼け跡の広島を歩いて行くシーンで小説は終わる。その後の彼の物語が知りたいと思った。それも著者の狙い通りなのかもしれないけど。

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