ストーナー

ジョン・ウィリアムズ「ストーナー」

評判は聞いていたものの、あらすじだけみれば極めて地味な作品で、長く積んだままだった一冊。ある一人の男の一生を淡々と描く。

自他共に認める波瀾万丈の人生を送る人もいるだろうが、多くの人にとって人生とは平坦で、しかし予測はつかないものという印象ではないか。妥協し、流され、目の前の些事に追われ、ふと振り返ると、そうであったかもしれない別の人生が道の両側に幾つも転がっている。

田舎の農家に生まれたウィリアム・ストーナーは、大学に入って文学に目覚め、学問の世界に身を置くようになる。結婚して子をなしたものの夫婦仲は冷え込み、大学では権力闘争に敗れ、中年に差し掛かった頃、自分の人生に何の意味があるのかと問う。

ストーナーの人生は平凡だ。数行に要約してしまうことができる。しかしその体験は決して要約できない。何を考え、何を感じたのか。繊細で丁寧な描写を通じて、小説はストーナーの人生を追体験させる。やがてストーナーは病を患い、静かに世を去る。その時、彼の生涯を幸、不幸でまとめることができないことに気付き、読者はそれぞれの平凡だが不思議に満ちた人生を振り返ることになる。

ジョン・ウィリアムズは寡作な作家で、本書は約半世紀前に米国で刊行された。当初はそれほど注目されず、近年になってヨーロッパから再評価が始まったという。読み終え、もっと早く読めば良かったと後悔した。自分の人生の段階ごとに違った感動があると思える作品で、10年後、20年後に再読したい。

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