あなたの人生の物語

テッド・チャン「あなたの人生の物語」

寡作なSF作家、テッド・チャンの短編集。表題作など8編。ファンタジー的な「バビロンの塔」から、「アルジャーノンに花束を」を連想させる「理解」、差別の問題を扱った「顔の美醜について」まで、題材、趣向はさまざまだが、科学、言語、倫理、宗教などのもたらす世界観の相剋が物語の根底にある。

映画化(邦題:メッセージ、原題:Arrival)もされた表題作は、エイリアンとの接触で、新たな言語体系を習得する言語学者の物語。エイリアンの言葉を解読していく過程と、その時点ではまだ生まれていない「あなた」=言語学者の娘の人生が平行して語られる。

人間は世界を時系列、因果関係で捉えて、そこに自由意思の存在を確かめるが、物理学には決定論的に振る舞う事象がある。時間が一方向に流れるという感覚も、あくまで人間に属している。言語学者のルイーズは、始まりも終わりもなければ、文字や単語に分解することも不可能なエイリアンの書記言語を解読することで、彼らの時間感覚=過去から未来までを同時に把握する認知能力を身につける。

決定論と自由意思というテーマだけなら古典的だが、この物語が強い印象を残すのは、決まった未来を知ることが現在の価値を損なうのではなく、今という時間、その一瞬一瞬の豊かさを高めるという視点にある。

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