一箇所に長逗留することをバックパッカーの間で沈没というが、かつてはインドや東南アジアの安宿に何ヶ月も滞在して、日がな一日何をするでもなく過ごしているような人が何人もいた。沈没にも程度があって、旅の合間に沈没する人と、沈没の合間に旅(というより移動)をする人がいて、後者は物価の上昇などで最近は絶滅危惧種になりつつあるようだ。
本書は1994年刊。80年代後半~90年代前半の旅を中心に、アジアからアフリカまで旅先で出会った人々の話がイラスト付きで紹介されている。移動しなければ見られない景色があるように、一箇所に留まることで出会う人や光景がある。
時系列で書かれた旅行記ではないため、「深夜特急」のように旅を追体験することはできないけど、そのぶん世界がぐっと身近に感じられる。安宿のドミトリーで他の旅人から、あそこにはこんな面白い人がいて、こんな変な旅人がいて、という話を聞いている気分。バックパッカーの旅の「あるある」と「へえ」が満載。絶版になっているのが惜しい名エッセイ集。