プレーンソング

保坂和志「プレーンソング」

保坂和志のデビュー作。少し広めのアパートに引っ越した「ぼく」のもとに、友人たちが転がり込んできて共同生活が始まる。事件も無ければ、変化も無い。近所に住む猫と競馬の話だけが淡々と綴られる。

余計な意味付けをせず、日常描写に徹することで、そこに不思議な感動が生まれている。それを言葉にするのは難しいが、あえて言うなら、平凡な日常や何てことのない会話を後で思い返した時、実は非常に面白くてユニークなものだったと気付かされた感慨に近い。

著者自身が「不幸や不安の予感のかけらもないような小説」を書こうとしたと振り返っているように、全編を通して漂う凪いだ空気が深読みを拒む。デビュー作とは思えないほど表現のスタイルが確立している。

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