さほどSFを読まない身からすると、SFと言われると、どうしても、科学、未来、宇宙、のような言葉が思い浮かぶ。そして、たまに手に取ると、その多彩さに驚かされる。サイエンスに想像力を働かせるだけでなく、サイエンスの制約から想像力を解き放ったフィクションもSFなのかもしれない。
本書は中国出身の米国人作家、ケン・リュウの日本オリジナル短編集。ベスト盤のようなものだから、面白くないわけがない。
移民で米国になじめない母と、それにいらだつ息子の関係を描いた表題作など、幅広い作風だが、どの作品も寓話的で、異文化、境界、過去やルーツへの郷愁といったテーマが根底にある。
「もののあはれ」「結縄」「心智五行」など、東洋思想、文化が作品に織り込まれた作品も多い。不老不死やデータ化された人類という、SFの定番テーマを扱った「円弧」「波」「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」といった作品も情感豊かで、SF的興味を超えて心に残る。