日々の暮らしや仕事に追われ、閉塞感で息が詰まりそうな時、別の世界に目を向けると心がふっと軽くなる。著者の作品は、そんな瞬間を鮮やかにすくい上げている。
表題作は18歳の少女、千春が主人公。高校を中退し、心を許せる家族も友人もいない。自分のやることに意味なんてない。誰にもまともに取り合ってもらえない。そう感じていた千春は、アルバイト先の喫茶店で客が忘れていった本との出会いをきっかけに、自分の人生を見つめ直す。
「河川敷のガゼル」では、大学に行きたくない「私」と、不登校らしき少年が、不慣れな環境に迷い込んでしまったガゼルを見守る。
「隣のビル」では、パワハラ上司に苦しめられている「私」が、会社の窓から隣のビルに飛び移る。
「ここではない場所」があると知るだけで、人は救われることがある。
「真夜中をさまようゲームブック」は、懐かしいゲームブック形式の作品。読むまでそんなジャンルがあったことも忘れていたが、選択肢を間違えるとすぐ死ぬのがまさにゲームブックという感じで笑った。