密林の語り部

バルガス・リョサ「密林の語り部」

ペルーの作家、バルガス・リョサの代表作の一つ。都会の生活と出自を捨て、密林の語り部となって新たな人生を生きることになった青年を巡る物語。私小説風、あるいはノンフィクション風の硬質な文体で語られる書き手と青年の思い出話と、語り部による脈絡のない神話、密林の世間話が交互に綴られる。

顔に大きな痣があり、マスカリータ(仮面)と呼ばれたサウル。ユダヤ系の出自を持つ彼は、アマゾン流域で暮らす先住民に興味を持ち、キリスト教の伝道師や言語学者が先住民の文化を破壊すると憤るようになる。彼は密林への旅を重ねるうちに、放浪しながら暮らすマチゲンガ族の語り部となって行方をくらます。

密林の民の記憶であり、記録であり、教師、メディアでもある語り部の存在が物語に奥行きと豊かな陰影を与えている。文化というのは、そもそもどの地域でも様々な歴史的事象や風土が絡み合って形成されてきたものだが、それにしても南米の文化・思想的地層は複雑で、いつも圧倒される。十数年前、ペルー、ボリビア、チリと旅をし、先住民から支配者までの文化が織りなす重層的な顔に驚かされたことを思い出す。

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