とんでも春画 妖怪・幽霊・けものたち

鈴木堅弘「とんでも春画 妖怪・幽霊・けものたち」

江戸時代、春画は決して異端の芸術ではなく、大衆的な広がりを持った文化だった。2015、16年に東京・京都で春画展が開かれ、春画に対する注目が高まったが、メディアで紹介される春画は“常識的”なものが多い。しかし、性的なタブーの少なかった近世以前の日本において、人々の想像力が現代の常識の枠内に収まっているはずがない。少しでも目立とうとする芸術家と版元の世界においては言うまでもなく、葛飾北斎には有名な「蛸と海女」があるし、男色、獣姦、幽霊・妖怪との交わりなど、ありとあらゆる営みが春画には描かれている。

本書はそうした多彩な春画約130点を掲載。表紙の骸骨は歌川国芳(股間の骨に注目)。

北斎の師匠でもある勝川春章の「百慕々語」(ひゃくぼぼがたり。もうこのタイトルからしてセンスあふれる)には、ヤマタノオロチならぬ「やまらのおろち」、一つ眼ならぬ「ひとつまらこ」などが描かれている。ユーモア溢れる生き生きとした筆致は、“トンデモ”と片付けてしまうことができない魅力に富んでいる。

その弟子、勝川春英はアカエイを犯す男を描いた。男とアカエイを見つめるカレイが「どふもをれもたまらぬ。フウスウ」と言っている様がおかしい。

このほか、釈迦を含めて登場人物全ての顔が性器になっている「陽物涅槃図」(作者不明)などもインパクト大。名のある浮世絵師で春画を手がけなかった人はいなかったといっても良いほどで、役者絵や風景画よりも楽しんでいたのではないかと思える遊び心が随所に感じられる。

歌舞伎や人形浄瑠璃の場面や、定番の画題のパロディーが多く、そこに同人誌文化の萌芽も感じられる。タイトルに「とんでも」を謳ってはいるが、トンデモ本ではなく、一読の価値はある一冊。

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