息子と狩猟に

服部文祥「息子と狩猟に」

登山家で猟師でもある著者の初の小説。命を巡る普遍的な問いを突きつけてくる表題作と、高峰での極限状態を描いた「K2」の2編を収録。

小学6年生の息子を連れて鹿狩りに来た週末ハンターが、死体を埋めに来た詐欺グループの男と遭遇する。男は息子を人質に取り、自分の手元には猟銃がある。獣の命を奪うのが許されるなら、なぜ殺人犯の命を取ることは許されないのか。

個人的にハンターの最後の選択には共感しないが、それでも自分ならどうするかという問いからは逃げられない。読み手を物語に巻き込み、当時者にしてしまう力を持った問題作。

地上8000mの世界を舞台とした「K2」も含め、日常離れした設定でありながら強い説得力を持った心理描写と場面展開は、まさに著者にしか書けないもの。職業作家が同じ題材で小説を書いても、ここまで地に足の着いたものにはならないだろう。文章の端々に、自然と対峙する中で身についた著者流の哲学が示されている。

「生きるとは殺して食うこと」

「ケモノは人間が思うほどバカじゃない。人間は自分が思っているほど利口じゃない。ケモノを追いかけていると、人間とケモノの違いがわからなくなる」

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