窓ぎわのトットちゃん

黒柳徹子「窓ぎわのトットちゃん」

戦後最大のベストセラー。少女の成長物語や、教訓に満ちた児童文学としても非常に面白いし、教育論としても今なお読まれる価値がある。

尋常小学校を退学させられ、トモエ学園に入ったという著者の経歴はよく知られているが、多様な個性をそのまま受け入れ、児童の自主性を尊重する先進的な教育をしていた学校が戦前からあったことにまず驚かされる。同時に、そうした教育が70年以上経った今なお定着していないことに、教育に対する固定観念の根深さも感じる。

東京大空襲で焼けるまでの8年という短い期間しか存在しなかった学校だが、散歩やレクリエーションを通じた実践的な知識の習得や、自習が基本で登校したら好きな教科からやっていいという仕組みなどは、現代の教育先進校でもなかなか実現できない取り組みだろう。あとがきで紹介されている、小林宗作校長の「子供を先生の計画に、はめるな」「先生の計画より子供の夢のほうが、ずっと大きい」という姿勢は、先生を親や大人と置き換えて自分自身も肝に銘じたい。

さらに印象深いのが、小児麻痺など様々な身体的特徴を持った子たちが、裸でのプール遊びなどを通じてコンプレックスを抱かなくなっていったという回想で、人は成長する過程で様々な偏見や先入観を身に着けていくが、その前に多様性に触れることがどれだけ大きな意味を持つかを示している。

今でこそインクルーシブ教育に取り組む学校や自治体は増えているが、まだまだ不必要な区別を配慮と勘違いしていることが多い。学校で教えられる知識そのものにはそこまで価値はないのだから、多様な他者と関わり、共同生活を送った経験こそが、きっと豊かな財産になる。

人はだれでもどこかしら変で、それぞれの変なところを変なまま持って生きられたら、世の中はもっとあたたかく、楽しくなるはず。

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