角田光代「ツリーハウス」
家族の物語。満州で出会った祖父と祖母は生きるために戦争から逃げた。敗戦後、戻る場所もなく、根を失ったままバラック街の一角で中華料理屋を始める。子供たちが育ち、孫たちが生まれ、それぞれに不器用に何かを失い、何かを得ながら生きていく。時に迷い、時に「大丈夫だ」というよく分からない感覚に流され、子供は大人に、大人は老人になっていく。そうしていつの間にか、根を失ったはずの自分たちの人生が根を張っていることに気付く。
ここまで徹底して地味に個人の物語に徹したフィクションは珍しい。ノンフィクションノベルと言われれば信じてしまいそうなほど、ここに大きな物語は存在しない。だからこそ、すべての人生に対して想像力を喚起される。