トリニティ

窪美澄「トリニティ」

戦後の雑誌文化の興隆期に、ある出版社で知り合った三人の女性の物語。

二十代で華々しいデビューをしたイラストレーターの早川朔こと藤田妙子。祖母から続く文筆家の家系に育ったフリーライターの佐竹登紀子。高卒で事務職として採用され、編集者になる道を提示されるものの寿退社を選ぶ宮野鈴子。三人の生涯が、鈴子の孫でライター志望の奈帆によって紡がれる。フィクションだが、舞台となる雑誌のモデルは「平凡パンチ」と「an・an」だろう。

三人の半生は、男性中心の社会で徐々に女性が居場所を切り開いていった時代に重なる。三人はそれぞれに何かを諦めて、道無き道を進む。

男、仕事、結婚、子どものうち、三つしか選べないとしたら、と考える場面が作中にある。好きなように生きたい。全てを手に入れたい。その切実な叫びは三人の物語を超え、社会の抑圧の中で何かを諦めなくてはならなかった全ての人の叫びとして強く胸を打つ。

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