藁の王

谷崎由依「藁の王」

デビューしたものの、著作は絶版になった1冊だけという小説家が、大学で創作を教えることになり、学生との関係を通じて「書くこと」について向き合う。何のため/誰のために書くのか、学生たちとの関係が行き詰まる中で「わたし」は考える。同時に、自分の考えを学生たちに強いても良いものかと悩む。

フレイザーの「金枝篇」に書かれる王殺しのエピソードが、教師と生徒、書き手と読み手/未来の書き手の関係に重ねられる。著者自身も大学の文芸学部で教鞭をとっており、フィクションの中に私小説の雰囲気も漂う。

創作についての物語だが、創作論というより、他者との関係、自己と向き合う孤独を創作という主題に重ねて描いている。挿話やメタファーの使い方、生真面目でナイーブな筆はいかにも純文学の短編という印象だが、その奥に切実なものがある。

併録に「鏡の家の針」「枯草熱」「蜥蜴」。

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