長谷川康夫「つかこうへい正伝 1968-1982」
間近で青春時代を過ごした著者だからこそ書ける詳細な評伝で、同時に、つかこうへいという特異なキャラクターに関する幻想を剝ぐ破壊力のある内容にもなっている。つかが台本を書かずに役者との共同作業で台詞を作る「口立て」の手法をとったことはよく知られているが、その様子が生き生きと描かれていて、「熱海殺人事件」や「蒲田行進曲」などの制作過程も分かる貴重な一冊。
稽古場で役者を罵倒し、人格否定を繰り返す一方で、急に独りよがりの気遣いも見せる。大きさと小ささが奇妙に共存したつかの人物像については、関係者の思い出話として語られてきたが、これまでちゃんとした評伝は存在しなかった。著者は、つかがインタビューやエッセイで噓八百を並べるため、現在世に出ている本や評論はそのほとんどが間違っていると指摘する。
驚いたのは、つかは小説やエッセイも「口立て」で書いていたということ。この本の著者である長谷川ら劇団員に草稿を書かせ、それを自ら直し、あるいは書き直しを指示して仕上げていく。(ただそうして仕上がった作品はまぎれもなくつかの作品となっていることを著者も認めており、いわゆるゴーストライターとは違う)
読めば読むほど、無茶苦茶な人だったということが分かるが、次第に引き込まれてしまう。周りの人間が酷い目に遭わされながらも、どうしようもなくつかに惹かれていったのが分かる。