宮城公博「外道クライマー」
エンタメ系ノンフィクションでは、早くも今年ベストと呼び声高い一冊。2012年、那智の滝に登り逮捕されたクライマーが綴る“山ヤ”よりも無茶苦茶な“沢ヤ”の世界。籔をかき分け、あえて谷底に入り、死と隣り合わせでゴルジュを正面突破する。沢ヤに比べれば、アルパインクライマーのなんと常識的なことか。馬鹿馬鹿しさを突き抜けて、次第に神々しく見えてくる。
日本最後の地理的空白部と言われる「称名廊下」から、台湾の巨大ゴルジュ「チャーカンシー」、タイの密林まで。名だたる高峰や極地がほぼ制覇された現代でも、地球にはまだ誰も見たことが無い景色がたくさんあるということを思い知らされた。人跡未踏のジャングルの中で、アニメソングを聞きながら、スマホゲームに興じる。かと思えば、滝に流され九死に一生を得る。緩急自在の文章も抜群に面白い。
那智の滝登攀で受けた社会的制裁についても書かれている。沢ヤは社会人としては確かに外道だが、未知の世界への渇望と「人間にこれができるのか」という問いかけは、人類の本能と言えるかもしれない。