津村記久子「ワーカーズ・ダイジェスト」
社会人のしんどさや、ささやかな喜びをさらっと描かせたら、著者に並ぶ作家はいない。
働いて生きていくというのはどうしてこんなに疲れるのか。冒頭の電車の中の描写など、心がささくれ立って攻撃的になっていく感じが、まるで自分のことのように胸に迫る。30歳を超えて人生が先細っていく焦燥感が漂いつつ、そこに過剰な悲壮感はない。ふとしたことで知り合った男女の視点で話が進むが、恋愛は予感の予感くらいにとどまり、大きな物語の展開もない。淡々とした日々がリアル。
共感して救われるか、あるいは小説の中でまでこんな思いをしたくないと思うか。読み手の好みは分かれそう(個人的には後者……)。