中上健次「天の歌 ―小説 都はるみ」
中上健次が都はるみの半生を描いた異色作。といっても評伝とは少し違い、中上の小説世界の中に都はるみが現れたという感じ。中上の過剰な文体は生身の存在の前でやや戸惑っている印象を受けるが、引退公演の場面などは他の作家には書けない迫力がある。
中上が新宮の路地ではなく、西陣の小路を描いているというだけで新鮮。忘れられたような作品だけど、結構面白い。
読んだ本の記録。
石川直樹、須藤功、赤城耕一、畑中章宏、宮本常一「宮本常一と写真」
宮本常一の写真は決して上手な写真ではない。自身の影や被写体と関係の無いものがよく写り込んでいる。ただ、どこかひかれるものがある。
“宮本常一と写真” の続きを読む
岡田喜秋「定本 日本の秘境」
経済成長の波がまだ地方に及んでいない昭和30年代前半に書かれた紀行文。秘境とは書いているものの、人跡未踏の地ではなく、あくまで人間の住む土地。九州脊梁山地から、神流川、大杉谷、佐田岬、襟裳岬…。中宮、酸ヶ湯、夏油といった温泉の往時の姿も興味深い。
宮本常一は「自然は寂しい。しかし人の手が加わるとあたたかくなる」と書いたが、まさにその“あたたかな風景”を求める旅。
“定本 日本の秘境” の続きを読む
加藤文太郎「単独行」
“孤高の人”として知られる加藤文太郎(1905~36)。戦前、パーティーを組むのが常識だった登山に単独で挑み、冬季槍ケ岳などで数々の単独登頂記録を残して「不死身の加藤」とも呼ばれた。
“単独行” の続きを読む