神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈

安丸良夫「神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈」

明治新政府が進めた神仏分離政策は日本人の信仰を大きく歪めたはずなのに、それについてまとめた書物は少ない。日本史の授業でもほとんど習わない。それぞれの寺社にとっても誇れる歴史では無いから語られずに来たのだろう。廃仏毀釈の嵐も今となっては全体像を掴むのは困難となっている。
“神々の明治維新 ―神仏分離と廃仏毀釈” の続きを読む

殺戮にいたる病

我孫子武丸「殺戮にいたる病」

これぞ叙述トリック!というような巧みなミスリード。読み手を騙すという一点に向けて物語が進む。犯人の名前も、犯行の様子も描かれているのに、想像力の盲点を突かれてしまう。読み手と犯人ではなく、読み手と語り手の知恵比べ。

ただ殺人の描写がグロテスクすぎて人には薦めにくいし、物語そのものは本格的な推理小説を求める人には物足りないかもしれない。あっと驚かされたい人は是非。

山背郷

熊谷達也「山背郷」

東北の山村、漁村を舞台とした短編集。明治から昭和にかけて、まだ人間が自然と直接向き合っていた時代の人の生き様を真正面からとらえている。どれもあっという間に読めてしまう短さだけど、東北訛りの会話の味わいもあってしっかり心に残る。いまどき珍しいくらいまっすぐな小説。「御犬殿」「川崎船(ジャッペ)」の2編が特に良い。

笙野頼子三冠小説集

笙野頼子「笙野頼子三冠小説集」

非現実的な妄想が延々と続くなど、リアリズムと対極にあるようで、思考の流れに逆らわないという点では、読んでいてリアリズムのような印象も受ける不思議な小説。決して難解ではなく、文章は読みやすい。「地下室の手記」を彷彿とさせる私小説的な「なにもしてない」。幻想小説のような「二百回忌」。マジックリアリズムで現代日本を描いたという感じの「タイムスリップ・コンビナート」。3作ともスタイルは全然違うのに手触りはどれも似ている。

猛スピードで母は

長嶋有「猛スピードで母は」

「サイドカーに犬」では父と愛人、「猛スピードで母は」には母。どちらの作品も小学生の視点で綴られ、奔放で個性的な大人が出てくる。そうした親を持つ誇らしさ、「自分」というものを持った大人への憧れ、同時に、大人として生きることのつらさへの慈しみのようなものも滲む。さらっと読めてしまう一見特徴のないシンプルな文章がかえって余韻を残す名短篇。

かわいそうだね?

綿矢りさ「かわいそうだね?」

三角関係を描いた結構ストレートな恋愛小説だけど、最後のカタルシスが著者ならでは。100%女性視点な描写と物語なのに、男が読んでも引き込まれてしまう。併録の「亜美ちゃんは美人」は、美人の親友を持った心境を描く。これも面白い。

悪人

吉田修一「悪人」

殺人事件を描きながら、ひとりとして純粋な悪人はいないし、一方で誰もが醜悪。 ドキュメンタリーを見ているような群像劇。登場人物が皆、俗っぽく、だからこそ他人事と思えないリアルさがあるし、自分の見たくない面を見せられているような嫌悪も湧いてくる。

人気作家ながら「パークライフ」しか読んだことが無かったけど、これを機に他の作品にも手を出してみようという気になった。