花村萬月「ゲルマニウムの夜 ―王国記1」
過激な暴力、性描写と書くと、よくある純文学の一分野の気がしてしまうが、これはグロテスクさで一つ突き抜けている。修道院を舞台に神を冒涜するかのような行為が重ねられていくが、それは宗教の欺瞞を露わにしながら、同時に信仰の悦楽に対する研究となっている。過激な描写はあくまで表面的なもので、その核にあるモチーフは古典的な印象。
読んだ本の記録。
佐藤清彦「土壇場における人間の研究 ―ニューギニア闇の戦跡」
「ジャワの極楽、ビルマの地獄、死んでも帰れぬニューギニア」と恐れられたニューギニア戦線。文字通り同胞相食む極限状態に陥った日本軍兵士の状況を、膨大な手記や証言から明らかにしていく労作。
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石牟礼道子「苦海浄土」 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
「苦海浄土―わが水俣病」に第2部「神々の村」、第3部「天の魚」をまとめた世界文学全集版。どのページを開いても胸が苦しくなるような言葉が綴られ、あまりの密度の濃さに読み進めるのにかなり苦労した。
よく知られた第1部では失われた世界、前近代の残光のような幸福感を描いていて、逆説的な人間賛歌でもあったが、第2部からは患者組織が分裂、訴訟に至り、水俣市民に憎まれ、国民から厄介者とされていく過程が生々しく描かれている。
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直接には描かれていないが、震災と原発事故を強く意識した小説。“素晴らしいふるさと”への同調圧力、集団意識の恐ろしさや、「絆」を声高に語ることのの醜悪さというテーマや問題意識には強く共感するけど、正直、このテーマは寓話として書くには適していないのではないか。現実の居心地の悪さの方が、ずっと複雑で、ずっと暗い。震災の前後、福島で暮らしていた自分には素直に物語に入ることができなかった。
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2014年に読んだ本は106冊(前年比26↓)、計2万9725ページ(同約1万↓)、1日平均81ぺージ(同28↓)と大きく減った。
その中で、石牟礼道子の自伝「葭の渚」と、終戦を知らずニューギニアの密林で暮らした10年を綴った島田覚夫「私は魔境に生きた」は強く心に残った。
“世界一幸せな土地”を求めて旅するE.ワイナーの旅行記「世界しあわせ紀行」、アメリカ製の心の病が世界を席巻していく状況に警鐘を鳴らすE.ウォッターズ「クレイジー・ライク・アメリカ」、河竹黙阿弥の生涯を描く河竹登志夫「黙阿弥」なども面白かった。
小説では、石牟礼道子「十六夜橋」、有吉佐和子「紀の川」、村上春樹の新訳、サリンジャーの「フラニーとズーイ」、松井今朝子「仲蔵狂乱」、黒川博行「文福茶釜」など。どれも最近の作品ではないけど。