民俗学への招待

宮田登「民俗学への招待」

民俗学の大家、宮田登氏のコラム。年中行事や民間信仰を始め、学校の怪談など都市民俗学にも触れ、興味深いテーマを多く取り上げている。ただ、ダブりも多いし、どれも尻切れトンボな印象。あとがきで新聞に掲載したコラムと知って納得。「民俗学への招待」と言うタイトルから入門書と勘違いしたが、エッセイと考えれば、それなりに面白い。

告白

町田康「告白」

あまりに思弁的で、百姓としても侠客としても生きられず、身を滅ぼしていく主人公・熊太郎。

「河内十人斬り」の実話を基にした一風変わった時代小説。「告白」のタイトルどおり、主人公の内面描写が800ページ延々と続くが、河内弁の饒舌な語り口で冗長さは感じさせない。

「『日本』とは何か」日本の歴史00

網野善彦「『日本』とは何か」日本の歴史00

7世紀末に生まれた「日本」は、決して農業中心の自給自足の歴史を歩んできたわけではなかった。国家という括りから離れ、「日本」の土地に住む人間の歴史を問い続けた網野善彦のエッセンスが詰った一冊。日本海を巨大な内海として捉える視点などはっとさせられる。

名著「日本の歴史をよみなおす」などに比べ、晩年の焦りか主観的な記述も目立つ。網野は間違いなくこの土地を愛していたが、日本という国政への憎悪とも言える記述には抵抗を感じる人もいるだろう。

東北学 忘れられた東北

赤坂憲雄「東北学 忘れられた東北」

近代日本と共に出発した柳田民俗学は、稲作を中心とした“瑞穂の国”として「ひとつの日本」を築く試みだった。それは東北の民とアイヌの間に強固な線引きを行い、共通性に目を閉ざした。境界を築くための「民俗学」から抜け出した時、縄文以前から人が住み、南北の文化が重なり合う東北の姿が見えてくる。

「忘れられた日本人」を著した宮本常一が晩年たどり着きつつあった“いくつもの日本”を見いだす民俗学へ。示唆に富んだ書。

戦争における「人殺し」の心理学

デーヴ・グロスマン「戦争における『人殺し』の心理学」

原題はThe Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society。軍属である著者の問いは「なぜ人は人を殺さないのか」。

第2次世界大戦で、兵士の発砲率は20%以下だったという。目前に死の危険が迫っても、人は人を殺す事を戸惑う。しかし軍隊の心理学は「条件付け」や「脱感作」、距離的な条件を変えることで、人を殺す事に慣れさせた。朝鮮戦争を経てベトナム戦争では発砲率は90%まで上昇したという。一方、人殺しが心にどれ程の負荷をかけるのか。

単純な反戦や戦争賛美を超えた戦争論。

インパラの朝

中村安希「インパラの朝」

26歳女性バックパッカー。アジアからアフリカを経てロカ岬への2年間。 開高健ノンフィクション賞受賞ということでルポっぽいものを期待して読んだら少し肩すかし。旅行記として見れば、現地の人や他の旅行者との距離感が絶妙で面白い。

前半はいかにも旅人の視点で違和感を感じる部分も多いけど、後半になるにつれて少しずつ変わっていく。

日本残酷物語1 貧しき人々のむれ

宮本常一、山本周五郎、揖西高速、山代巴「日本残酷物語1 貧しき人々のむれ」

「残酷物語」という言葉から特異なケースを取り上げた記録集と勘違いさせかねないが、内容はまっとうな民衆史。

飢えや病が避けられぬものだった時代。人が生きていくため、どんな歴史を刻まなければならなかったのか。
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日本文化の形成

宮本常一「日本文化の形成」

日本をくまなく歩いた民俗学者・宮本常一の遺稿。日本の“文化”はどこから来たのか。海を渡ってきた人たちが何を、どうもたらしたのか。

土間ではなく床に暮らす生活スタイルが海洋民の文化に由来するなど、人々の暮らしに密着してきた人間にしかできない着想が多い。未完ゆえの完成度の低さが惜しまれる。

アフリカを食べる

松本仁一「アフリカを食べる」

「カラシニコフ」の著者の特派員時代をつづったエッセイ。山羊の骨髄、牛の生き血、インパラの刺し身……、軽い文章でアフリカの食文化が描かれているが、同時に紛争や貧困の現実も痛い程伝わる。

食をテーマとしたルポは辺見庸の「もの食う人々」が有名だが、辺見の文章はやや大仰で、時折傲慢さも感じられる。著者の年齢も連載・刊行時期もほぼ同じだが、辺見より視線が現地に近い。軽妙だが、敬意に満ちている。

新 忘れられた日本人

佐野眞一「新 忘れられた日本人」

伝説的な地上げ屋、蒟蒻ジャーナリスト、スケベ椅子の開発者……一時代を築きながら、歴史から忘れられつつある人たちを取り上げた短篇評伝集。

タイトルは宮本常一の名著「忘れられた日本人」から。少々大それたタイトルをつけた感があるが、面白い。