絵巻物に見る日本庶民生活誌

宮本常一「絵巻物に見る日本庶民生活誌」

中世以前の絵巻物の隅に描かれた民衆の姿を通じ、当時の生活を読み取っていく。

仮説をつなげ、語られなかった歴史をよみがえらせる手法は後に網野善彦らの研究につながっていった。かなり面白く刺激的な一冊だが、印刷が不鮮明なのに加え、絵の収録が不十分なのが残念。新書ではなく大型本で読みたい。

紫苑物語

石川淳「紫苑物語」

美文で知られる石川淳だが、この時期の文章が一番美しいかもしれない。日本語の小説としては一つの完成形だろう。物語があってそれを伝えるために言葉があるのではなく、言葉と物語が一体となった文章を書く希有な作家。

無縁・公界・楽 ―日本中世の自由と平和

網野善彦「無縁・公界・楽 ―日本中世の自由と平和」

中世以前の日本にあった今とは違う「自由」の形。論文として見れば根拠の弱さが目立つかもしれないが、問おうとしたものは非常に大きい。農業民主体の静的な日本史からの転換。刺激的な1冊。

ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか

シュロモーサンド「ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか」

“ユダヤ人”の根幹を成す離散を否定する「追放の発明」と題した章が強烈。シオニストは、改宗で各地に増えた「ユダヤ教徒」を聖地を追われた「ユダヤ民族」とすり替え、歴史を創作した。

楢山節考

深沢七郎「楢山節考」

長寿が恥とされる村社会。棄老などの風習は他にもっと詳しく記録したものがあるが、小説でなければこのすごみは出せないだろう。

「おっかあ、雪が降って運がいいなあ」が泣ける。

わたしを離さないで

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

設定も登場人物の行動も非現実的だけど、強く引き込まれる。悲劇的な設定とか後半の泣かせる展開はおまけと言っても過言ではない。子供時代を描いた前半、物語の種明かしを劇的にせず、徐々にさらっと流していくあたりが絶妙。

阿房列車

内田百間「阿房列車 ―内田百間集成1」

中身が全く無いのに面白い。最近エンタメノンフィクションという言葉が使われるが、その元祖とも言える。

石川淳の作品なんかを読んでも思うけど、日本文学の文体の豊穣さはいつの間に失われたのだろう。

死者の書・身毒丸

折口信夫「死者の書・身毒丸」

高校生の時は全く理解できなかった、というより、あらすじすら掴めなかった。

ほぼ十年ぶりに読んでみて、美しい小説だと感じた。ただ予備知識がないせいで、文章の速度に付いていけない。

した した した。

夏への扉

ロバート・A・ハインライン「夏への扉」

後半のやや乱暴な展開も含めて素敵な物語。50年以上前の作品というのはちょっと驚き。中学生くらいで読んでいたらかなり好きになっていたかも。

“ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは―”

闇の奥

ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」

新訳で結構読みやすかった。やっぱりこれは植民地主義云々とか人間性の闇とか、そういう話じゃないな。 The horror! The horror!