わたしを離さないで

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」

設定も登場人物の行動も非現実的だけど、強く引き込まれる。悲劇的な設定とか後半の泣かせる展開はおまけと言っても過言ではない。子供時代を描いた前半、物語の種明かしを劇的にせず、徐々にさらっと流していくあたりが絶妙。

すばらしい新世界

オルダス・ハクスリー「すばらしい新世界」

人間の出生すら管理されるようになった社会を描いたディストピア小説。

「最大多数の最大幸福」の醜悪さ。

今読むとちょっと冗長に感じるけど、今から約80年前、「1984」より17年前の作品というのは驚き。フォードが神で、十字架がT字架に変わったなどの設定も秀逸。

日輪の翼

中上健次「日輪の翼」

久しぶりに読み返した。中上作品の頂点は「枯木灘」、「千年の愉楽」、「奇蹟」あたりだと思うが、この作品がなぜか強く心に残っている。

トレーラーで旅する7人のオバの物語。全体にも細部にも難があるけど、有無を言わせない説得力がある。

“おうよ、わしら、クズじゃだ。チリ、アクタじゃだ”

きつねのはなし

森見登美彦「きつねのはなし」

内田百閒の「冥途」のような雰囲気。具体の伴わない恐怖や焦燥感。「四畳半神話大系」のような作品の一方、こういう作品も書ける、良い意味で器用な作家だと思う。

夏への扉

ロバート・A・ハインライン「夏への扉」

後半のやや乱暴な展開も含めて素敵な物語。50年以上前の作品というのはちょっと驚き。中学生くらいで読んでいたらかなり好きになっていたかも。

“ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは―”

闇の奥

ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」

新訳で結構読みやすかった。やっぱりこれは植民地主義云々とか人間性の闇とか、そういう話じゃないな。 The horror! The horror!

宇宙論入門 ―誕生から未来へ

佐藤勝彦「宇宙論入門 ―誕生から未来へ」

新書で入門と付くのは大抵コラム程度の内容で買って損したと思うけど、これは丁寧な仕事。

宇宙スケールの話を考えていると、仕事とか日常の些事なんかどうでも良いやって気分になる。

好き好き大好き超愛してる。

舞城王太郎「好き好き大好き超愛してる。」

死や物語に真摯に向き合い、思い切った構成も良いんだけど、どこか物足りない。 中高生向けなのか、安っぽいケータイ小説へのアンチテーゼとしてあえて同じレベルに落としているのか。終わりの方はちょっと良かった。

八つ墓村

横溝正史「八つ墓村」

もはや古典だが、松本清張より古さを感じさせない。 田舎の閉鎖的な雰囲気と、物語そのものに引き込まれる。漫画でも、ドラマや映画でも、この作品のオマージュというべきものがたくさんあるが、原点にして完璧。