一の糸

有吉佐和子「一の糸」

芸道一筋に生きた文楽三味線弾きの露沢徳兵衛と、その後添えとして生涯をささげた酒屋の箱入り娘の茜の一生を、敗戦、文楽会の分裂、鶴澤清六と山城少掾の決別など、現実の出来事をモデルに交え描いた長篇小説。
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完本 八犬伝の世界

高田衛「完本 八犬伝の世界」

あまりに長大な「八犬伝」の世界。水滸伝や民話、他の読本など、どこに典拠があり、その要素を馬琴がいかに稗史として組み立てていったのかを徹底的に読み解いていく。スリリングで濃密。この手の考察本としては異例なほど面白い。

伏姫・八房物語を人獣交婚ではなく「人獣交感」に昇華させた馬琴の卓越した手腕。信乃に反映された馬琴自身の生い立ちなど、どれも興味深い。

綱大夫四季 昭和の文楽を生きる

山川静夫「綱大夫四季 昭和の文楽を生きる」

昭和を代表する文楽太夫、八世竹本綱太夫。取材者としてよりも、友人として身近に接してきた立場から、「四季」のタイトル通り、折々の思い出が綴られていて、師を愛し、芸を愛したその人柄がよく伝わってくる。

2度にわたって文楽界の分裂の当事者となりながら、配慮の足りなさから周囲に裏切りととられる行動を起こしたことも丁寧に書かれていて、厳しくも、温かい、包み込むような評伝。

歌舞伎の愉しみ方

山川静夫「歌舞伎の愉しみ方」

型や舞台の作りなど、歌舞伎特有の表現技法や約束事を丁寧に解説した一冊。入門書ながら、著者の歌舞伎に対する愛が溢れている。山川静夫という名アナウンサー、芸能評論家のエッセイとして、歌舞伎にそれほど興味がなくても楽しく読めるのでは。

能・文楽・歌舞伎

ドナルド・キーン「能・文楽・歌舞伎」

圧倒的な知識とそれに基づく理解の深さ。能の解説書などで、「幽玄」といった概念は曖昧な説明になりがちだが、原文が英語で書かれているためか、西洋的・分析的な考え方に染まってしまった現代日本人にも分かりやすく書かれている。初心者にとっては最良の概説書だろう。

著者の生き方を見ていると、文化とはただそこにあるものではなく、選び、学び取っていくものだと感じる。
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上方伝統芸能あんない

堀口初音「上方伝統芸能あんない 上方歌舞伎・文楽・上方落語・能・狂言・上方講談・浪曲・上方舞」

能、文楽、歌舞伎から落語、浪曲、舞まで、上方伝統芸能の初歩の解説書。観劇ガイドに加え、柔と剛、舞と踊りなど、上方と江戸の芸能の違いにも触れていて、とても分かりやすい。それぞれの項目に演者へのインタビューも載っていて読み物としても充実。