2015年上半期の直木賞受賞作。この回は芥川賞の又吉直樹「火花」が話題をほぼ独占してしまったが、直木賞のこの作品も近年にない傑作として異例の高い評価を集めた。
舞台は戦後の台湾。抗日戦争から国共内戦の時代を生き延び、大陸から台湾に渡った祖父の死を巡る謎を背景として、語り手の「私」の青春が綴られる。猥雑で熱気あふれる台湾の街の描写は、匂いが漂ってくるよう。
骨太のエンタメ小説に仕上がっていると同時に、歴史を刻み、他者の人生を通じて読み手の世界を揺さぶる文学としての奥行きもある。著者の家族の話を下敷きとしており、フィクションにとどまらない説得力と迫力がある。