2014年上半期の芥川賞受賞作。平凡な町の姿やそこで繰り広げられる日常を淡々と見つめ、フィクションとして文章に写し取り、そこに何が立ち上がるのかを試す。大阪を舞台とした「その街の今は」などで取り組んできた手法の完成形とも言える作品。
小説の舞台は、取り壊しが迫る古いアパートと、その近所にある水色の屋根の家。何か事件が起こるわけではない。人間ドラマというほどの人間関係の機微が描かれるわけでもない。
都会の片隅を定点観測し、さらにその記録のごく一部を抜き出したような地味な小説だが、読み終えて日常の見え方が少し変わったような気がする不思議な読後感がある。近くに暮らしていても話したことがない人、何度も目にしているのに気にも留めなかった風景。そんなものが日常の中にはたくさんある。