藤野可織「爪と目」
二人称という難しい形式を、娘から継母への視点で巧みにまとめあげている。しかも幼少期の出来事を語ることで3歳児のまなざしと重ね、そこに計り知れない敵意、悪意、あるいは諦観のようなものを感じさせる。まるで自分の無い大人の描写も気味が悪い。ただ併録の2編も含めて、書かれている内容や雰囲気の割には、なぜこれを書くのか、書かざるを得ないのかという、作品に対する切実さのようなものはあまり感じられなかった。
読んだ本の記録。
安部公房「幽霊はここにいる・どれい狩り」
安部公房の初期戯曲集。どれも安部公房のエッセンスが見事につまっていて、さらに、なぜ演劇に足を踏み入れたのかがはっきり分かる作品となっている。
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「松緑芸話」
二代目尾上松緑の芸談。七代目幸四郎の三男で、長兄が十一代目團十郎、次兄が八代目幸四郎。六代目菊五郎に預けられたことで、音羽屋と、さらには九代目團十郎の芸を継ぐことになる。前半は幼少期から戦争体験を経ての半生記。兄たちの人柄など貴重な証言で、かつ面白い。中盤からは各演目の見せ方の工夫など。「一谷嫩軍記」の團十郎型、芝翫型の違いなどが興味深い。
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小野一光「家族喰い ―尼崎連続変死事件の真相」
疑似家族を精神的に支配し、血縁同士で暴力を振るわせ、親族の財産まで搾り取る。逃げ出しても追いかけ、気に入らなければ殺してしまう。
何より恐ろしいのは、普通の環境の、普通の感覚を持った人たちがちょっとした因縁で巻き込まれ、まともな生活も大人としての矜持も失ってしまうということ。
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古本屋で目についた一冊。「十八番」や「二枚目」、「三枚目」など、芝居由来ということが広く知られている言葉から、「お土砂」などのマイナーな言葉まで、語源を考察しながら歌舞伎の舞台裏などを綴ったエッセイ。ひと昔前の本だけあって、最近は見ない言葉まで載っているのが面白い。
「千松」なんて、『伽羅先代萩』や『伊達の十役』を見たことがあるから意味が推察できたものの、今でも使っているのだろうか。
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