A3

森達也「A3」

何も解明されないままほぼ終結したオウム裁判。独房で糞尿を垂れ流し、面会時には自慰行為に及ぶ……麻原は公判の途中で訴訟能力(責任能力ではない)を失っていたのではないか。

裁判に限らず、オウムはあたかも“例外”として扱われ、信者には建前の人権すら認められない。懲罰感情ばかりが先走りする社会に著者は異議を唱える。

なぜ教団が暴走したのか、なぜあんな事件に至ったのか。盲目でかつ最終解脱者を自称する故、自ら情報を集められない麻原。一方で幹部信者の競争意識から、麻原に与えられる情報はエスカレートしていく。この相互作用が破滅に向かっていったとする著者の推測は説得力があるが、麻原本人が壊れたまま裁判が終結してしまった今となっては、真実は分かり得ない。

「なぜあんな事件が起こったのか、その理由と背景を今最も考えているのは(これほど皮肉なこともないけれど)、この事件の実行犯であり、今は死刑判決を受けている元信者たちだ」

コメントを残す