オルタネート

加藤シゲアキ「オルタネート」

高校生限定のマッチングアプリ兼SNSが普及した社会を舞台とした青春群像劇。

ネット上での行動分析に遺伝情報まで考慮してマッチングするという設定は、SFや近未来小説としてはむしろ凡庸で古めかしいし、その設定を生かしきれていない(踏み込みが浅い)という印象も受けるが、悩みながらも前を向いて生きていく登場人物たちの姿は爽やかで、青春ドラマとしてストレートに心に響く。SNSでの自己表現が人間関係において大きなウェイトを占めつつある今、思春期の他者や自己との向き合い方はより複雑になっていて、そうした時代をうまく捉えている。

特筆すべきは料理の場面。高校生による料理コンテストが物語の一つの軸になっていて、さまざまなオリジナルレシピが登場する。そのどれもが魅力的。食の描写で読み手を惹きつけられるのは作家として才能がある証。

著者の経歴にはアイドルとの二足の草鞋ということがどうしてもつきまとうけど、決してファン向けの余技といった内容ではない。某大女優の小説などは、本人の顔や経歴がちらついて小説や物語を読む喜びを感じることができなかったけど、本作は誰が書いたかということから切り離して存立し得るフィクションとしての強度がある。おそらくこれからも書き続けるだろうし、もっと良い作品も生み出せると予感させる佳作。

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