あとは野となれ大和撫子

宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」

直木賞と芥川賞の候補にそれぞれ選ばれ、硬軟幅広い作風を持つ作家の直木賞候補作の一つ。

設定が秀逸。舞台は中央アジア、干上がったアラル海に建国された架空の国アラルスタン。しがらみのない新たな国は、ソ連崩壊や民族紛争の混乱を逃れて周辺国からの難民が集まり、中央アジアにおける「自由主義の島」と呼ばれている。

一方で、石油利権を狙う隣国の脅威や、イスラム原理主義勢力の問題を内部に抱えており、ある日、テロで大統領が殺されてしまう。男の政治家たちが逃げ出す中、後宮の女(というよりも少女)たちが国の舵取りを担うことになる。

国際情勢、環境問題、女性の人権、移民、難民。テーマは重量級だが、物語はドタバタ。後半に行くに連れて筆の勢いは加速する。船戸与一のような骨太の世界設定を、漫画的な軽妙さで仕上げた傑作。

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