三宅周太郎「文楽の研究」
昭和初期から終戦直後にかけて書かれた評論。明治以降、火災や戦災、人気の波で何度も危機に見舞われた文楽界の雰囲気が現在形で伝わってきて興味深い。御霊文楽座の火災などがどれほど大きな事件だったのか分かる。
芸の道の中でも文楽は特に厳しい。10年、20年どころではない果てしない下積みと稽古の日々。大序の大夫や人形遣いの困窮を綴った章は読み物としても心に残る。
著者は文楽の未来を後継者不足や技量の低下でかなり悲観しているが、それでも現代まで文楽はしぶとく生き延びてきた。この本で入門したての若手として名前が上がっている人々が、半世紀以上が経った今、人間国宝となっているのが感慨深い。人から人へ受け継がれてきた芸の貴重さ、かけがえのなさが胸を打つ。