能に着想した八つの物語。それぞれに人間の業のようなものが描かれているが、もとの謡曲に比べると、脚色することで矮小化してしまった印象も。
能を下敷きとした作品は少なくない。パロディやオマージュは、欲を言えば、元の作品(とそれに連なる作品群)の世界を拡張するようなものであってほしい。
という感想を抱いた後、この連作短編はむしろ能という様式に昇華された人間の業を、再び卑小な感情の断片に戻した物語ととらえるべきかと考え直した。その意味では、謡曲の知識を持たずに読んだ方がいいかもしれない。読後に能を見ると、それぞれの曲の背後に人間の複雑な感情が折り重なっているのがよりくっきりと感じられるのでは。