二つの震災をつなぐ、一匹の犬を巡る物語。犬好きは涙必至。
震災で飼い主を失った「多聞」は、さまざまな人々と出会いながら南を目指す。貧しさから犯罪に手を染める男、窃盗団の一人、関係の行き詰まった夫婦、娼婦、老猟師――たまゆらの飼い主と時間を過ごしながら、多聞はやがて熊本の少年のもとにたどり着く。
物言わぬ犬が、それぞれの人生の輪郭を浮かび上がらせる。多聞のまなざしは、登場人物だけでなく、読者をも見つめているかのような温かさがある。
物語のために人があっさり死にすぎなど、突っ込みどころは多々あれど、大人のための童話として多くの人の心を打つだろう作品。