おそらく最も越えるのが難しい国境だろう。
コロンビアとパナマの国境であるダリエン地峡は密林が覆い、道らしい道も存在しない。コロンビアでは長くFARC、AUCを中心とした内戦状態が続き、国境の密林はコカインの密輸ルートにもなってきた。近年、コロンビアの治安は劇的に改善されたが、ダリエン地峡は今なお、ゲリラやマフィアが跋扈し、地雷が至る所に埋められ、戦闘や誘拐事件が続いている。
著者はそのダリエン地峡を徒歩で越えることを試みる。最初のチャレンジはコヨーテ(ガイド)を雇ったものの軍に拿捕され失敗。2度目は先住民のクナ族と親しくなったものの、スケジュールが合わずに断念。3度目の正直で、パナマ側の親戚を訪ねるというクナ族とともに国境越えに成功する。
危険な国境だが、越えようとする人々は少なくない。密林の中の道なき道を進む中、著者は野営の跡を見つけるだけでなく、同じルートを進む人々の姿を目にする。もちろん旅行者ではない。
南米の国々からだけでなく、アフリカ系やアジア系の難民もいる。中でも多いのがキューバ人で、入国審査の緩いエクアドルに入り、そこから陸路で米国を目指すルートがあるらしい。もちろんその道中で命を落としたり、捕まって強制送還されるケースは数知れない。
一緒に国境を越えたクナ族の男性がパナマ側で入国を認められないと言われる場面は、国境の理不尽さをよく表している。パスポートを持っているにもかかわらず、「帰りのチケット」「500ドルの所持金」という入国条件を満たしていないからと親戚の村を訪ねることすら許されない。その後、著者にも一波乱。最後まで気が抜けない迫真の記録。
あとがきによると、2014年に書き上げたものの、幾つかのノンフィクション賞に落選し、なかなか日の目を見なかった作品とのこと。蔵前仁一氏の紹介で産業編集センターから刊行されることになったようで、この貴重なルポが本になったことが喜ばしい。