遭難に至る過程と、いかに生き延びたかのドキュメント。とても参考になる内容で、もっと早く読めば良かった。ノンフィクションの読み物としても非常に面白い。
海外の高峰に挑むような特別なシチュエーションではなく、国内の山で、ごく普通の登山愛好家が、何がきっかけで引き返せない状況に陥ったのか、そして、そこで生と死を分けたものは何だったのか。当時の状況を、生還者への聞き取りをもとに再現している。
大きく八つのケースが紹介されているが、その多くが初心者というより、ある程度の経験と知識を兼ね備えた人々。一瞬の気の緩みによるコースアウト、帰りのバスの時間が迫っている事への焦り、引き返すという決断の遅れ。誰もが陥る可能性のあるケースが描かれており、遭難に至るまでの思考・精神状態の記述は、ハイキングレベルの山行しかしない人でも参考になるだろう。
迷ったらまず引き返す。下山時に道が分からなくなっても、決して沢に降りてはいけない。そうした基礎知識があったとしても、トラブルで慌てている精神状態ではなかなか難しい。
いずれのケースも、最終的には無闇に動かずに、その場で救助を待つことを選んでいる。助かったきっかけは、たまたま家族にルートを知らせていて捜索活動が的確に行われた、たまたま土産用のわさびマヨネーズを持っていて何日も生き延びることが出来た、など。当人にとっては偶然と言える内容だが、遭難に備えて事前に用意することのできる“偶然”でもある。