高山文彦「エレクトラ ―中上健次の生涯」
「これを書かなければ生きていけないというほどのいくつもの物語の束をその血のなかに受け止めて作家になった者がどれほどいるだろうか」
書くべきものは山ほどあった。それでも、書き上げるまでには何年もかかった。
新宮の「路地」に生まれた中上健次の生い立ちは有名だが、その路地を小説の舞台に昇華するまでの苦闘は、初期の作品から推察はされるものの、よく知らなかった。
河出書房と文藝春秋の2人の編集者と出会い、いかに自らの複雑な出自や路地と向き合って「岬」を書き上げたのか。かなり読み応えのある評伝。中上健次ファンならずとも必読。