サリンジャー「フラニーとズーイ」
村上春樹による新訳。
とにかく読んでいて胸が痛くなる。ズーイの言葉とフラニーのいらだちは、サリンジャー自身の叫びのようだ。信仰を巡る会話が延々と続き、当時はこれがそのままスピリチュアルな主題として受け止められたのだろうが、今読むと、それは訳者の村上春樹が指摘しているようにメタファーとして感じられる。かえって多くの人の心に迫るのでは。
「僕の見る限り物質的な財宝―もっと言えば知的な財宝だって同じだ―に貪欲になる人間と、精神的な財宝に貪欲になる人間とのあいだには、違いはまるでない。(中略)歴史に登場するすべての厭世的な聖人の九十パーセントまでは、僕に言わせれば、ただのもの欲し顔のつまらん連中だ。基本的には僕ら俗人と何ら変わるところはない」
「いいかい、この世界中のどのような宗教においても、独善性を正当化するお祈りなんてあるわけないんだ」