ホサナ

町田康「ホサナ」

大傑作「告白」に匹敵する約700ページの大作。愛犬家の主人公は、ある日、“日本くるぶし”と名乗る神なのか何なのか分からない声から「正しいバーベーキューをせよ」という啓示を受ける。

物語は繰り返し思索の脇道にそれ、思索もひたすら脇道にそれ続ける。予定調和からは程遠い、無茶苦茶な展開がこれでもかというほど積み重ねられる。こんな突拍子もない物語を綴ることができるのも、饒舌な文体を持っているからこそ。

タイトルの「ホサナ」はヘブライ語で「救い給え(hosanna)」を意味するという。大災厄に見舞われた世界を、主人公の男は飼い犬とともに旅をする。“ひょっとこ”の死体をかき分け、毒虫に追われる旅の中で、救いを求める切実な思いと卑小な自我がせめぎ合う。

物語は不条理を通り越して、もはや出鱈目でしかない。ただ徹底して現実離れした醜悪な世界を描いているのに、我々が目をそらしている現実社会の方が醜悪で、出鱈目と笑うしかない状況に陥っているのかもしれないと、どこか背筋が寒い思いがする。

読み通すのに体力がいる。読み手を選ぶ小説でもある。個人的にも、「告白」や初期の短編・中編の方が面白かったとも思う。それでもこれほどのものを書く著者のパワーに圧倒され、読み終えて言葉を失った。

コメントを残す