表題作は「サンプル」の松井周との共同取材・原案プロジェクト「inseparable」で書かれた中編。架空の島を舞台に、信仰や歴史といった「常識」がいとも簡単に覆ってしまう様を描く。
人は文化の入れ物に過ぎず、一人ひとりが都合の良い嘘を信じて生きている。著者の世界観が凝縮された作品だが、後半がやや駆け足で、プロローグ的な印象も残った。長編として書ききれば非常に力のある作品になったかもしれない(ただ、これで十分という印象を受ける人も少なくないとは思う)。
併録の「満潮」は、夫婦がそれぞれ一人で浴室に籠もって潮を吹こうと努力するというシュールな話。だが、そこに、自分ではままならない性の問題が横たわっている。押し付けられ、奪われる身体の性と、人はどう向き合って生きていけるのか。ふざけたようで、真摯な佳品。