飴屋法水は1961年生まれ。唐十郎の状況劇場を経て劇団グランギニョルを旗揚げし、その後、現代美術の領域に移行して先鋭的な表現を次々と打ち出してきた。95年、珍獣を扱うペットショップを開き、突如表現の場から身を引いたが、近年再び活動を再開。2013年に福島県いわき市の高校生と作り上げた「ブルーシート」は岸田國士戯曲賞を受賞した。
「彼の娘」の“彼”は著者の飴屋法水自身で、“娘”は彼が45歳の時に授かった“くんちゃん”のこと。
大切なもの、大切な人は誰にでもあるが、それは主観的で個人的なものでしかない。著者の思想の根本にあるのが、どんな命も究極的には等価であるということ。娘との日々を書いた喜びに満ちた私小説でありながら、その筆は常に客観的に彼と彼女の関係を綴っていく。
まだ10歳のくんちゃんに何かを説明してあげることはあるが、教え諭すようなことはない。彼と彼女はあくまで対等な人間として、互いの思いや考えを会話に載せ、一緒に考える。
娘が生まれる前の日々から、父の死の記憶、さらに娘より先に死ぬだろう自分の死後のことにまで、彼のことを書く筆は脈絡なく飛んでいく。命がつながっていくことの不思議さと、死に挟まれた日常のまばゆさに、著者とともに目がくらみそうになる。