獣の奏者

上橋菜穂子「獣の奏者」

     

久しぶりにファンタジーが読みたくなったので、未読だった人気シリーズを一気読み。「I 闘蛇編」「II 王獣編」「III 探求編」「IV 完結編」「外伝 刹那」の5巻。

闘蛇と王獣という兵器になり得る力を持った生物を巡る物語。厳しい戒律で管理され、決して人に馴れぬとされてきた王獣を操る技術を身につけてしまったことで、主人公の少女は運命の奔流に巻き込まれる。闘蛇と王獣を近代兵器のメタファーとした寓話としても読めるが、エンタメ小説にそうした解釈を一々差し挟むのは無粋だろう。とにかく面白い。

トールキンやル=グウィンの作品でも、同じ著者の「守り人」シリーズでも、優れたファンタジーは、まるで物語が自然に動き出したかのように感じられるほど世界観が作り込まれていて、同時に現実の写し絵のように感じられる部分もある。だからこそ児童文学の枠を超えて大人もその物語に引き込まれる。ただ剣と魔法の世界というだけでは面白く無い。

最初の2巻で物語としては完結しているが、続く3、4巻で、その世界に歴史という広がりが加わる。蛇足に感じる人もいるかもしれないが、この2冊が書かれたからこそ、この物語は長く読み継がれるものになったと思う。外伝では本編で語られなかった人物の物語が綴られる。優れた舞台設定はいくらでも物語を生み出す。

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