十数年ぶりに再読。著者の作品は高校生の時に「夫婦茶碗」を読んで爆笑して以来、新刊が出ると手に取ってきた。それまで活字、ましてや小説で声を上げて笑ったことなんてなかったので、小説の面白さを教えてくれた作家の一人でもある。年を重ね、笑いに対して鈍感になった(涙腺は緩くなったのに)せいか、もはや吹き出すことは無かったけど、今読んでもやっぱり面白い。
表題作は、友人に頼まれてある人物に嫌がらせすることになった男が主人公。併録の「けものがれ、俺らの猿と」は、映画の脚本の依頼を受けた男がわけのわからない世界に巻き込まれていく話。うだつの上がらない男が、暴力的で馬鹿げた世界に対してもがく点は、著者のほかの作品とも共通している。
著者の作品は「告白」や最近の長編も面白いが、初期の中短編にはパンクロッカーだった作家らしい疾走感があふれている。要約すれば意味を失ってしまうという点も非常にパンク的。最後までハイテンションで馬鹿馬鹿しい場面が続き、その上どこか生々しく、他人事とは思えない近さがある。