ニムロッド

上田岳弘「ニムロッド」

2018年下半期の芥川賞受賞作。

会社の新規事業としてビットコインのマイニングを任された主人公と、その恋人、同僚で作家志望だった男。3人の関係を軸に現代の日常が綴られ、そこに男がメールで送ってくる「駄目な飛行機コレクション」の話が挿入される。

仮想通貨はその仕組みや価値の担保の仕方が非常に現代的で、そのまま表現や社会のメタファーとしても機能する。さらに「駄目な飛行機」が、二重のメタファーとしてユーモアと哀愁を挟む。

意欲的な作品だが、遠大なテーマに対し、表層的な構成に留まってしまった印象も。同じ回の芥川賞候補に入っていた「平成くん、さようなら」もそうだが、こうした小説が興味深いとすれば、それは物語そのものの魅力ではなく、現実がフィクションよりも奇妙なものになりつつあることを示しているからという気もする。

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