旅行先のカシュガルで失踪した男を巡る物語。黄河の源流にあるという星宿海に幼い頃から惹かれ続けた男の半生が、その弟と恋人の視点を通じて浮かび上がる。
大阪の川べりで盲目の母と二人で暮らしていた少年は、母の死後に養子として引き取られ、成長して玩具メーカーで働くようになる。恋人との間に子をなした直後に失踪し、血の繫がらない弟と、幼い子を抱えた恋人がその行方を追う。
やがて物語は男のルーツに至り、舞台を開通したばかりのしまなみ街道に移す。なぜ少年と母は橋の下で身を隠すようにして暮らしていたのか。不遇でありながら周囲の愛には恵まれた男が常に身にまとっていた孤独は何だったのか。
高原に無数の池沼が点在するという星宿海の光景が、瀬戸内の海と島々に重なる場面が美しい。著者の長編を手に取ったのはかなり久しぶりだが、その豊かなドラマ性と、泥臭くも清冽なイメージを紡ぎ出す筆に圧倒された。