落日

湊かなえ「落日」

気鋭の女性映画監督・長谷部香と、彼女から依頼を受けた駆け出しのぱっとしない脚本家・甲斐千尋。2人の視点で、15年前に2人の故郷で起きた事件をめぐる家族のドラマが描かれる。

引きこもりの長男が起こした一家殺害事件。裁判で判決も確定した事件の真相が徐々に明らかになる。その過程は、フィクションと想像力を通じて、事実ではなく真実に迫ろうという作家自身の決意のようにも思える。

少し物足りなく思ったのが、映画監督・長谷部香の家族の物語に厚みがある(こちらだけ見れば傑作)一方で、物語の鍵を握る少女の造形が薄く(薄っぺらい人間の存在はある意味現実的と言えなくもないが、フィクションの中心にそういう人物がいると結構しんどい)、事件を引き起こすに至った家族像が類型的なものにとどまってしまっている。

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