大熊一夫「ルポ・精神病棟」
精神病院が「治療なき収容所」だった時代、その一つにアル中患者を装って入院したルポ。1970年に朝日新聞に連載されたもの。
当時多くの病棟で行われていたのは治療ではなく、抑圧的な管理と、思考力を奪う過剰な投薬のみで、長くいればいるほど社会復帰が難しくなっていった(同時に病院側でも金のなる木として患者の退院を簡単には認めない傾向があった)。ロボトミーは既にほとんど行われなくなっていたが、電パチ(電気ショック)は多用されていたし、患者への脅しとしても機能していた。
連載後の反響や、病棟の開放に取り組んだ医師とそれに反対する病院側の裁判などについても書かれており、それらを通じて当時、精神病患者が社会や医師からどのように見られていたかも分かる。
生きる価値にまで踏み込んだナチスの例は極端だとしても、生まれつきの「精神病質」は救いがたいという考えのもと、長期の収容・隔離が当然のように行われていた。精神医療の現場は大きく変わったかもしれないが、同じような価値観は現代社会にも根深く残っている。