信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来

斉藤賢爾「信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来」

ブロックチェーンの技術がもたらす社会経済の未来像。それはデジタルマネーの普及や、法定通貨が仮想通貨に置き換わるという単純な話ではない。著者は貨幣経済が衰退し、新しい形の信用経済が世界を覆っていくだろうと予見する。その際、消費者と生産者の区別はなくなり、人工知能の発達、シェアリングエコノミーの普及と相まって、「貨幣」「専門分化」「国家」は三つ巴で存在感を低下させていくという。

社会経済の歴史として、物々交換が貨幣経済に発展したという単純な理解があるが、著者は物々交換が経済の基礎を成した時代は過去に存在しないと指摘し、ブロックチェーンの技術によって、初めて広範な領域で物々交換が可能になると述べる。

著者は、ブロックチェーンを特定の主体が管理しない「空中に約束を固定する」メディアと定義する。誰も改竄できず、誰でも参照できる台帳は、ビットコインのような仮想通貨だけでなく、全てのものを交換の対象にする可能性を秘めている。まだ技術的な課題は山積しているものの、ブロックチェーンによって信用が担保されるようになると、貨幣は歴史的な役割を終えるかもしれない。

人間同士の最も古い関係性が贈与であることは疑えないが、そこから発展したのが信用取引であり、信用こそが社会と経済の基礎にある。井原今朝男「中世の借金事情」などでも触れられていたが、日本でも中世以前の社会は、売買による経済よりも貸付取引による経済が先行していた。貨幣は信用を補完する媒体に過ぎず、貨幣のプレゼンスが低下した時、再び贈与と信用をベースにした社会が姿を現すのは必然とも言える。

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